2022年6月27日の素話(牛鬼)
おばあさんに化けた牛鬼
このへんでは魚のアジを取って漁師が多かったんだ。
そんな漁師たちが今日も海にでかけていったんだ。
「いやー、今日はようさんアジが取れた。大漁大漁。どれ、ここらで浜に上がって一休みしようや。」
そう言うとアジ漁師の仲間たちはとれたてのアジを塩焼きにして、浜辺でお酒を飲みながらあーでもない、こーでもないと話をして楽しむのでした。
アジの焼けるいい匂いがして来たときに、どこからともなくおばあさんがやってきて言いました。
「ええ匂いじゃのう、わしにもそのアジごちそうしてくれや」
漁師たちがそのおばあさんの方を振り返ると、そのおばあさんは針金のような髪の毛をして、今にも飛び出しそうな銀色の目玉、耳まで裂けた口からギザギザの歯をむき出しにして、カチカチと歯を鳴らしていたのです。
漁師たちはすぐに「こいつは化け物に違いない。絶対に返事したらダメなやつや」と考え、目で合図を送ると、みんなじっと黙り込んで下を向きました。
おばあさんは「どうした?早くわしにもアジをくれや」と催促するので、一人の漁師が言いました。
「ああ、うまいアジはもう食べてしもうた。せや。新しいのを船から取って来たるさかい、少しまっとれ。」そう言って、慌てて船に乗り込みました。
すると「あいつ一人じゃ大変や。ちょっと手伝って来る」「ああ、そしたら俺も手伝いに行こう」「俺も行ってこよう」とみんな船に乗り込んで、そのまま沖の方へ漕ぎ出したのです。
しばらくしてみんなが逃げ出したのに気づいたおばあさんは、浜辺から恐ろしい声で叫びました。
「こらぁ待たんか!わしを騙して逃げよるんか!逃げるんなら魚の代わりにお前らを食ってやるぞ!」
漁師が振り返ると、おばあさんがものすごい勢いで海に飛び込んで、泳いでくるではありませんか。必死に船を漕いで逃げたのですが、おばあさんはすぐに追いついて船の後ろに噛みついたのです。
一人の漁師が「こら離さんか!」と舟を漕ぐ櫓を振り上げて、おばあさんの頭を叩こうと思ったのですが、おばあさんが銀色のギョロリとした目でこっちを見てくるので、腰を抜かしてしまいました。かと言ってこのまま船をかみ砕かれては、船が沈んでしまいます。
そこで漁師たちは「なむ船霊大明神、我らをお助けたまえ、お助けたまえ」と唱えながら夢中で船を漕ぎました。夢中で船を漕いでいると、いつの間にかおばあさんはいなくなっていました。船の後ろはボロボロにかみ砕かれており、今にも沈むところでした。
実はこのおばあさんのような化け物は、体が牛で顔が鬼の「牛鬼」と呼ばれる化け物でした。牛鬼はいろいろなところで出てくる妖怪です。
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