2021年6月21日の素話(のっぺらぼう)

のっぺらぼうのお話

昔々、ある村外れに景色のいい浜辺がありました。

「ああ、とってもいい景色だなぁ」と一人の男の人がしばらく眺めていると、若い女の人が一人松の木に寄りかかって海を眺めているのに気が付きました。

顔はよく分かりませんが、後ろ姿はとってもきれいな女の人のようです。ちょっと脅かしてみようと、男の人はソロリソロリとその女の人に近づきました。

そして、ポンと肩を叩くと、女の人は驚いて後ろを振り返りました。「ぎゃー!」と叫んで驚いたのは男の人の方でした。

なんと、その女の人の顔には目も鼻も口もなく、まるで卵のようにツルンとしたのっぺらぼうだったんだ。

男の人はとてもびっくりして這うようにしてその場を離れると、後ろも振り返らないで逃げ出しました。走って走って近くの村まで行くと、道に人力車が止まっていたので慌てて飛び乗りました。

「とにかく早く、遠くの村まで行ってくれ」

男は人力車の車引きに頼むとぜぇぜぇと息を切らしていました。

車引きは「旦那、どうしてそんなに慌ててるんです?」と聞くと、男の人は「これが慌てずにいられるか、あの浜辺で恐ろしい女を見たんだ」と答えたんだ。

車引きが「恐ろしい女ってのはどんなのなんです?」と聞くと、男は「それは、その・・・」と困っていると、車引きが顔をツルンと撫でてこう言ったんだ。

「もしかして、こんな顔じゃなかったですかい?」

車引きの顔からたちまち目と鼻と口がなくなり、のっぺらぼうが現れたんだ。

男はまたまた驚いて、人力車から飛び降りてめちゃくちゃになって走り出しました。

脅かされて逃げてきたのに、またのっぺらぼうが現れて、男は泣きそうになって逃げ出しました。もうどこを走っているのか分かりません。苦しくて苦しくて今にも心臓が破れそうです。

ふと前を見ると一軒の家が見つかりました。男はその家に飛び込むと場たりと倒れて、「水、水をくれ」とぜぇぜぇしながら言いました。

すると女将さんらしい人が男に水をいっぱい飲ませながら聞いてきました。

「旦那さん、どうしてそんなに慌ててるんですか?」

「目も、鼻も、口も・・・無くて・・・」男はぜぇぜぇ息を切らしているのでうまく話せません。

すると女将さんがニヤッと笑って、ツルンと顔を撫でて「それってこんな顔ですかい?」と聞いてきました。

男がハッと女将さんの顔を見ると目も鼻も口も無いのっぺらぼうでした。

男は「ひゃあ!」と叫んでそのまま気を失ってしまいました。

しばらくして目を覚ましたら、男は野原の真ん中で裸のまま倒れていたそうです。

 

怖い話の面白さ

子ども達の中には怖い話が大好きな子もいます。もちろん嫌いな子もたくさんいます。ですので、時々怖く、時々面白くを目指して色々と話し方を工夫しています。

本来素話は耳から入ってくる情報だけを頼りに、頭の中でイメージをふくらませるのが大切ですが、異年齢の保育をしている姫井保育園ではどの年齢の子ども達でも理解できるような一工夫が必要になってきます。

今回は、のっぺらぼうに変わる「手で顔を撫でる」部分だけ実際にやってみました。

目の前で話をしている私には当然目も鼻も口もありますが、子ども達のイメージの中では私の顔から目や鼻や口がなくなってくれればと思います。

怖い話を聞く時には声色も変えます。少しだけ抑揚を強くしたりするだけで、子ども達の緊張感が高まって、溜めを作って少し大きな声にすると、子ども達の体が反応します。しっかりとお話に入り込んでいる子どもほど、素直に反応します。そして、反応の大きかった子どもほど「面白かった~」といって帰っていきます。

遊びこむことの大切さはこのブログでも何度もお伝えしていますが、お話であってもその世界にしっかりと入り込むことができる子は、集中力や想像力がしっかりと育っている用に思います。逆にお話に集中できない子どもは、特定の遊びにしか集中できなかったり、ウロウロと立ち歩いたりすることが多いように思います。

どんな子どもにも「自分の興味にピッタリ」というお話がきっとあると思いますので、いろいろなテーマの「怖い話」をして、子ども達をビクビクさせながら楽しい時間にしたいと思っています。

その経験が「なにかに没頭することで得られる経験」となり、将来の力の基礎になってくれればと思っています。

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