2022年6月13日の素話(山の化け物、ともかづき)

川端誠の絵本に「お化けの・・・」というシリーズがあります。この絵本に出てくるお化けはどれもみんな愛嬌があって、怖いというより微笑ましい姿を沢山見せてくれます。

「お化けの海水浴」という絵本に「ともかつぎ(ともかづき)」というおばけが出てきたので、少し気になってお話を探してみました。

少し怖い話ですが、今日はそのお話をしてみました。

たんぽぽグループ向け(山の化け物)

ある日漁師が山の奥で獣を狩っていたところ、山の奥にぼんやりとあんどんの光が見えました。

漁師は「おかしいなぁこんなところあんどんがあるなんて」と思って、よーく見てみると、あんどんのそばに白髪のおばあさんが座っていました。おばあさんはカラカラと糸車を回しています。

こんなところでおばあさんが糸車を回しているはずがない、あれはきっと山姥に違いない、ここで仕留めてやる、と漁師は鉄砲の狙いを定めて、おばあさんをズドンと打ちました。ところがおばあさんは平気な顔で糸車をカラカラと回し続けています。

漁師は「よし、今度こそ」ともっとしっかり狙いを定めて、もう一発ズドンと鉄砲を撃ちました。今度こそおばあさんに命中したと思いましたが、おばあさんはカラカラと糸車を回しています。そして、漁師の方をくるりと振り向き、「ヒヒヒヒヒ」と笑いました。その顔を見た漁師は怖くなって逃げて帰りました。

漁師は返ってくると仲間に山姥みたいなおばあさんを見つけたが銃で撃っても仕留められなかった話をしました。すると仲間は「そりゃ山の化け物の仕業だろう、おばあさんを打つんじゃなくて、あんどんを打たなきゃ駄目だ」と言われました。

次の日漁師はもう一度同じ山に行き、今度はおばあさんの傍にあったあんどんをズドンと銃で撃ちました。すると「ぎゃあああ」とおばあさんが悲鳴を上げました。近くによってよく見ると、それはおばあさんではなく、何十年も年をとったミミズクだったのです。

 

すみれグループ向け(ともかづき)

昔、伊勢の海に「みよ」という海女さんがおった。海女さんってのは海に潜ってサザエやアワビを取ってくる仕事をしている女の人なんだ。

この海には「ともかづき」という恐ろしい妖怪がいて、海女さんから恐れられていたんだ。みよは先輩の海女さんたちから、こう教えられていたんだ。

「いいかい、みよ。ともかづきってのは私達と同じ海女さんの格好をしていて、「アワビをあげよう」と言ってくるんだけど、決して手で受け取っちゃいけないよ。手で受け取ったらそのまま海の底まで引きずり込まれるからね」

みよは恐ろしくなったんだけど、アワビを売ってお金にしないと食べていけないので、しっかりと覚えておこうと思ったんだ。

 

その年の夏はとても嵐の多い夏だったんだ。なかなかアワビやサザエが取れなくて、みよは明日食べるものさえ買えなくなってしまったんだ。

海は大荒れでとても漁に出られる日じゃなかったんだけど、どうしようもなくて、みよは海に潜ることにしたんだ。

なんとか海に潜ってアワビを探すんだけど、どこにも見つからないんだ。どうしようかと岩場で悩んでいたら、岩の陰からおばあさんの海女さんが「こんな日にアワビを取りに来るなんて、頑張っているねぇ。頑張っているから、アワビをあげようか?」と言ってきたんだ。困っていたみよは思わずそのおばあさんから、手でアワビを受け取ってしまったんだ。

その途端、おばあさんはニヤリと笑ってみよの手首をつかんで、あっという間に海の底に連れて行ってしまったんだ。海の底に連れて行く途中、おばあさんは「やっと身代わりが出来たよ。これでやっと成仏できる」といったそうだ。

ともかづきは自分の身代わりを海の底に連れて行かないと成仏できない化け物だったんだ。今度はみよが自分の身代わりを探して、今日も海女さんたちに「アワビをあげようか」と聞いているそうだ。