2002年9月18日 第11号 良い味覚と食べる意欲

2019年5月27日

厳しかった残暑もそろそろ収まり加減で、どことなく秋の気配が漂い始めたようです。

夏の間はプール遊び、水遊びで猛暑をたくましく乗り切っていた子どもたちですが、中には体調を崩したり、トビヒや水イボなどで遊びがままならなかったお子さんもあって気の毒でした。元気であればあったで、酷暑の疲れが見えない形であるものですから、残暑の九月はみんなゆったりと過ごして心身を整えてから秋のいい時期を迎えていきたいと思います。

子どもでも大人でも、心身を整える基本要素は食事と睡眠です。この2つが気持ちよく取れている時は、まずきげんよく過ごせているような気がします。大人であれば この他に、仕事や人づきあいが上手く行っていればハッピーですし、子どもならば、日々の遊びがおもしろく友だち関係も良ければ、となるでしょう。

そこで保育園での食事ですが、なんといっても旺盛な身体づくりの時期にある幼児ですから栄養のバランスが大切です。しかし客観的な栄養面だけでなく、食べる楽しみを味わうことや、よいマナーを身につけることも大切です。とくに食事が楽しい時間でなければ、食欲もしぼんでしまいますから、園ではなごやかで楽しい食卓であるように心がけています。

食卓が楽しいためには、まずおいしい食事であること。これはなかなか難しい問題です。おいしいといっても、好みや慣れで人さまざまなところがあります。

しかし幼児期は味覚もまだ未完成の時期ですから、良質のものを幅広く用意して、いろいろなものにふれて無理なく良い味覚が育つように心がけています。

一つの試みとして、昨年から「だし」を化学調味料から天然素材(鰹節、昆布、イリコ)を使うように切り替えました。調理担当者からの、素朴でも日本の食文化が親しんできた自然な味わいをベースに入れたいとの提案によるものでした。また、化学合成で作られた調味料はできれば避けたいとの考えもありました。

当初、どちらかというと柔らか目の、悪くいえばぼんやりした天然だしの味に戸惑ったり、なじめないのではではないかと不安がありました。しかし、全く逆で、食べ具合がよくなり、おつゆなどはお代わりが増え、「おいしくなった」とはっきり言ってのける子どもさえいました。そのほかの食材も出来合いの冷凍食品や添加物の多いものはできるだけ使わないよう、手作りで安全な食事を基本にしています。

子どもたちの一番楽しみのおやつも、手作りを心がけて、レパートリーと回数を増やしてきました。お菓子になると食事づくりとまた違ったニュアンスがあってときに当たり外れのばらつきもあるようですが、頑張って経験を重ねているところです。

ところで、楽しい食卓であるためには、好き嫌いや、食べ方の早い遅いなど、1人1人のありようをかなり受け入れていかなければなりません。以前の園便りでふれたことがありますが、かつてある保育雑誌が企画した保育園の思い出アンケートで、嫌だったこと、辛かったことのトップに「食べたくないのに給食を残さず食べさせられたこと」があがっていました。偏食の是正なども、楽しい食卓を壊さない限度で無理なく見守っていく方が、かえって近道のようです。

先日ランチルームをのぞいたところ、4歳児の女の子が3歳児の男の子に、「もう食べられんの?無理して食べんでもええんよ」と声かけしてあげる姿を見かけました。そう言われた子は嬉しそうな安心したような表情をしてしていたのが印象的でした。担任の先生にその話をしたら、その女の子は以前は偏食がちで残すことが多かったのが、いつのまにかよく食べられるようになったとのことでした。

好き嫌いを認めてもらうことが、却って食べる意欲へとつながり、また思いやりの心も育てていったのではないかと思われました。

残暑が去れば、食欲の秋がやってきます。園の食事とおやつが一層子どもたちの楽しみと潤いになるよう心がけていこうと思います。