かっぱ岩

秋から冬にかけて行事が目白押しとなっていたことも有り、久しぶりの素話になってしまいました。

久しぶりに日本の昔話から一つお話を持ってきました。「ごめんで済んだら警察いらん」という園長コラムと一緒に見ていただければと思います。

本編

むかしむかし、ある川に、一匹のカッパが住んでいました。

かっぱの住む川の近くには小さな村があり、そこにはたくさんの子どもたちが住んでいました。

子どもたちは川に白い石を投げ入れて、よーいどんでそれを取りに行くという遊びを度々していました。するとそこへカッパが現れて、子どもたちに言いました。

「楽しそうだな。おれも仲間に入れてくれ」

子どもたちはカッパが人間の尻子玉(しりこだま)を取って食べると聞いていたので、みんないっせいに逃げ出そうとしました。するとカッパは、串に刺した魚を見せて言いました。

「おれに勝った者には、この魚をやるぞ」

見ると、とてもおいしそうな魚です。子どもたちはお腹が空いていたので、カッパとの勝負を受けました。

「よし、それなら勝負しよう」

こうしてカッパと子どもたちは勝負を始めましたが、カッパは泳ぐのがとても得意なので、子どもたちは何度やっても勝つことが出来ません。そこで村で一番大きな子どもが、カッパに勝負を挑みました。

「よし、今度はおらが相手になってやる」

子どもたちは、どっちが先だろう?とワクワクしながらその様子を見守っていました。ところが、カッパも村一番の子どもも、どちらも水の中からあがって来ませんでした。

待っても待っても二人とも上がってこないので、心配になった子どもの一人が大人を呼んできました。村の大人みんなでその子を探したのですが、結局この日はその村一番の子が見つかりませんでした。

翌日も川の近くを大人たちが村一番の子を探して歩き回っていると、草むらから昨日のカッパが出てきました。

村人たちはカッパ捕まえると、子どもをどこへやったかと問いただしました。するとカッパは、ばつが悪そうに言いました。

「子どもの尻があまりにも美味そうだったので、尻子玉を抜いて食っちまった。そしたら子どもはそのまま水に流されて、どこかへ行ってしまった」

村の大人たちはカンカンに怒って、「何だと! このカッパめ、許さないぞ、叩き殺してやる!」と、カッパを殴りつけました。

カッパは何度も涙を流して謝りました。「許してください。おれが悪かった。もう、二度としませんから」

それを見た村人たちは、カッパに言いました。

「それでは、二度と子どもの尻子玉は抜かないと約束しろ。川の中にある、あの大きな岩が腐るまでは、決して悪さをしてはならんぞ」

「わかった、約束する。あの岩が腐るまでは、決して悪さはしない」と、村人たちは、カッパを許してやりました。

それからというもの、カッパはこの約束を守って悪さをしなくなりました。それでも時々は、約束した大きな岩に登っては、「この岩、まだ腐らんのじゃろか」と、岩を手でなで回しながら言ったそうです。

 

余談

カッパ岩のお話はついつい自分の欲望に負けて取り返しのつかないことをしてしまったカッパとそれに対して怒りのままにカッパを殴りつける大人達のところがとてもドキドキする展開です。

ところが大人たちは「二度と子どもたちの尻子玉を抜かないと約束しろ」とカッパに約束させ、「岩が腐るまで」と不可能と思えるような約束をさせています。カッパがその約束の意味をよくわかっていないところが面白いところなのですが、実際には、不可能と思えるような約束を受け入れるまで、カッパが反省していたのだから、村の大人たちもカッパを許してやろうという気になったのではないかと感じます。

ただの昔話にそこまでの意味はないだろう、という考えもありますが、ただの昔話だからこそ、子どもたちの心に染み入りやすく、こういった「規範」となるものが自然に染み込んでいくのではないかなと思います。

お説教臭くなってしまわないように注意しながら、やって良いことやってはいけないことが子どもたちに伝わるようなお話もしていきたいと思います。