2000年12月7日 第4号 保育園の食事について

2019年5月27日

町並みの街路樹の葉が落ちて、冬の気配が深まってきたこの頃です。

先日の保育参観では、日ごろの保育の様子に加えて、3歳以上のクラスではホールで昼食をお子さんと一緒にしてもらう「給食参観」で保育園の食事を実地体験していただきました。

今年の6月から「もも組」(2歳)から上のクラスでは、ホールをランチルームにして昼食をとっています。「もも組」は11時半から、そして「つき組」「ほし組」(3、4歳)、「すみれ組」(5歳)は3クラスがふれあって12時から一緒に食べはじめています。

ばら組(0歳)、ゆり組(1歳)は付き添ってこまめに介助しながらの食事なので、保育室でとります。今まで各クラスでとっていた昼食に比べ、大変落ち着いた静かな雰囲気で食事ができるようになりました。

テーブルには、つき組の子もほし組の子もすみれ組の子もいて異年齢構成の食卓です。
全員いっせいに「いただきます」をして食べるわけではありませんが、子どもが食卓につくまでには配膳をすべて終え、食事のための手洗いなど準備のできた子から、「いただきます」を言って食事に入るので、ひとりひとりが無用に待たされることもなくなごやかな食事風景です。

各クラスの保育室には、子どもたちの気質や個性や成長に合わせて集中して取り組めるよう、積み木遊び、ままごと遊び、製作遊び、絵本コーナーなどを作っていますが、ランチルームにする前は、食事のために沢山のスペースを取られ、その都度片付けたり、配膳したり大騒ぎでした。

また食事に時間のかかる子のそばで、早く食べ終えた子が遊び始めて、落ち着かなかったり、逆に食事していると思うように遊べなかったり、いろいろな不都合がありました。

今では食事が済めば1人ずつごちそうさまを言ってクラスに戻り、午前中の遊びの続きをすることができますし、新たな遊びに取りかかることもできます。子どもたちの動きや表情が大変自然になりました。

外遊びでは体を一杯に使ってたくましく遊び、室内ではゆったりと落ち着いた雰囲気で先生の声や友達の声が無理なくとどく静けさの中で、きげんよく集中して遊ぶことを大切にしていますが、そのためにも「ランチルーム方式」は大成功だったように思います。

ところで、当日は食事をご一緒された保護者の皆様に、ご意見ご感想をお願いしたところ、快く書いていただき本当にありがとうごさいます。喜んでいただいたところは、園としても努力している点で、さらによいものにしていく励みにしたいと思います。

それにもましてとてもよかったのは、幾つかの率直な疑問や改善点を書いていただけたことです。汁物の塩気が濃かったのは、当日職員もいぶかったところで、調理室の方から、どうも味の点検をした後に少し煮つまって、塩気が濃くなってしまったということで、大切な反省点になりました。

食事の量については、一人一人の食欲に合わせた配膳をするのが難しいので、年齢に応じてよく食べる子と少食の子の中間よりやや少な目を基準に盛り付けています。少食の子ができれば食べきれるように、また、足りない子にはお代わりを沢山用意するようにしています。

食欲の違いにとどまらず、食べる速さにも差があります。テーブルの中であまり早い遅いの差が出ると、食卓の気分が落ち着かないものになってしまいます。そこで早めのグループ、遅めのグループというように、テーブルごとにできるだけ共通ペースになるような組み合わせにしています(参観日当日は、お知り合いの保護者同士でご一緒していただいたことなどから、通常と違う組み合わせになったりして一部のお子さんのペースが乱れたようでした)。

次に、残してもいい、という方針については、疑問を持たれる向きもあるかと思いますが、職員間でいろいろ話し合った末に出した方針で、次のような考えに立っています。

数年前、保育園に通った大学生を対象に、在園当時のことについて調査したアンケートがありました。それによると、保育園で何より嫌で辛かったのが「給食を残さないように食べさせられたこと」で、次が「お昼寝したくないのに横になってじっとしていなければならなかったこと」だったそうです。

大人でも嫌いだったり、食欲の無いときに「もう一口食べなさい」と強制されたり、全部食べ終わるまで許してもらえないとしたら、食事の楽しみはどこかへ飛んでいってしまいますし、それが食事の都度毎回となれば、生活全体が重苦しいものとなりかねません。

「でも、小さい時からしつけておかなくては、過保護の甘やかしになって、わがままな子になってしまうのでは?」と心配な方もいるでしょう。

今までの園便りでもお話してきましたように、乳幼児期に最も大切に育てなければいけないものは、人や社会に対する共感と信頼だと考えています。周りの大人から愛され、安心できる環境の中で、この時期をきげんよく過ごすことによって、初めてその共感と信頼が子どもの心に育ちます。

「世界はいいところだ・人も自分も価値あるものだ・人生は生きるに値するいいものだ」という肯定的で前向きな基本感覚があって、初めて小学校以後の学習や訓練をこなしたり、課題を達成しようとする意欲が生まれるように思います。将来、たとえば自殺したいほどの大きな挫折や苦悩に直面した時でも、それを乗り越えていける力のおおもとはこの辺にあるのではないでしょうか。そしてこの生きる土台となる基本感覚は乳幼児期にしか身につかないといわれています。

子ども達は乳幼児期の集団生活の中で、大人が思う以上に、不安や葛藤をもって生きているのです。

保育園は大きな家庭であるように心がけていますが、それでも親に「食べなさい」といわれれば「イヤ」といえる子も、保育士に「食べなさい」といわれれば、ぐっと我慢して辛い思いに耐えることになります(一見、偏食や少食が治ったように見えますが、その代償として子どもの心に大きな傷が残らないとも限りません)。

社会や人に対して開かれた共感と信頼を培う意味でも、状況に応じて行動できる自立性と自尊心を育てるためにも食事は楽しみであってほしいし、「きげんのいい」食卓であることを大切にしたいのです。

残してよいということで栄養面はどうか、偏食を治さなくてよいのか、マナーの点でどうかなどいくつかの心配があがってくるかもしれません。

「親の背中を見て子は育つ」とは昔からよく言われてきましたが、子どもは自分が一番信頼し、大好きな人の姿を模倣して育ちます。子どもが小さければ小さいほど全てを真似しようとするものです。「きげんのいい食卓」が保障されていれば、大好きな人が楽しく美味しそうに食べているものを同じように食べてみたくなるのが子どもです。

乳幼児には子どもの目の前で大人が楽しく、よいマナーで残さず食べる姿を見せてあげることがなにより一番の「しつけ」になると考えています。そして食事の場を、子ども自身が何より大切に感じられるような心豊かな満足できる所にしていくことが、健康な食欲とほどのいいマナーへの早道ではないでしょうか。

そうやって生活のさまざまな場面で、子どもの周りにいる大人が手本となり、子どもの欲求が無理なく満たされ、人とかかわり合う楽しさを体験していく中で、合理的な社会のルールやきまりを素直に受け入れていくゆとりと力が培われていくのだと思います。

ご意見で出されていた、小学校との連携はとても大切なことで、今後保育園、幼稚園と小学校との連絡会のようなものが地域で作られるようになると良いと思いますし、保育園としても折に触れそうした方向への努力をしていきたいと考えています

子どもの食事の問題は、添加物や環境ホルモン、アトピーやアレルギーへの対応などもあり、これからもさらに勉強し考えていかなくてはならない大切なところです。

園便りを読まれて、ここのところは納得がいかないとか疑問が残るとかありましたら、ぜひご意見をお聞かせ下さい。これからも保護者の皆様と手をたずさえて、共に同じ目線で子どもの育つ場を作っていきたいと思っています。

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