2000年5月10日 創刊号 なぜ「きげんのいい子どもに」なのか?
さわやかな5月の風の吹きわたる園庭に、こいのぼりが泳ぎ、新緑の木々の枝からは藤の花が咲き乱れています。連休も終わり、これから夏に向かって各クラスとも楽しみの多い中にも、落ち着いた日々が過ごせるようです。
姫井保育園では、15年前より「きげんのいい子どもに」を保育目標にしてきました。園便りの創刊にあたって、なぜこの「きげんのいい子どもに」を保育の目標にしているのかお話しようと思います
小学校に上がる前の乳幼児期の子どもにとって、一番大切なことはなんでしょうか?丈夫なからだを作ること、基本的な生活習慣を身につけること、友達を作り仲良く遊べることなど色々考えられると思います。また、思いやりを育てるとか、頑張る力、我慢する力をつけるとか、考える力をつけるとかいう人もいるでしょう。
そういった、子どもの中に育てたい様々な事柄の根っこになるのが「信頼」だと考えています。
周りの人やものごとに対して信頼のある子は、とてもきげんがいいものです。特に赤ちゃんの時には、オギャーと泣いたら、すぐにその泣き声に答えておっぱいをもらえたり、濡れたオムツを変えてもらったり、抱き上げてもらったりすることによって、周囲の人間や世界にたいする信頼を育てます。
赤ちゃんは泣くことでしか自分の要求をまわりの人に伝えることができません。自分では何ひとつできないのです。ですから赤ちゃんは、自分の要求がスムーズに満たされれば満たされるほど、周りの人や世界を信じ、自分を信じることができるようになります。安心してきげんよく過ごすことができるのです。
生きていることはとても快適なことなんだ、素敵なことなんだ、自分が望んだことはきっとかなえられるといった、人生に対する前向きで肯定的な信頼がもてることによって,子どもは安心して外の世界へ一歩一歩足を踏み出す好奇心と勇気を持つのだと思います。また,信頼しているお母さんのいうことだから、自分が大好きなおとなのいうことだからいわれたとおりにしようとするのです。
泣いたらすぐ抱いてもらえたり、過保護にしたら依頼心の強い自立できない子になってしまうのではないか心配だ、という声をよく耳にします。しかし、泣いても泣いても要求を満たしてもらえなかった赤ちゃんは、やがて周りの人や世界に対して深い不信と、自分に対する無力感を覚えるようになるといわれています。赤ちゃんが要求を十分に満たされ,安らいできげんよくいられることが人生の基礎を作るといっても過言ではないと思います。
幼児期は自立への大事なステップとよくいわれますが、そのためには何よりきげんよく安心して過ごせる、信頼できる人や環境が必要なのです。
子どもは歩けるようになると、わざと高いところに登ったり、水たまりの中に入ってみたり、汚いビンの蓋を拾って放さなかったり、引出しの中身をぶちまけたり、次から次へといけないというありとあらゆる事をしたがります。登ったり、降りたり、転んだり、濡れたり、触ったりする様々な体験を通して自分と自分の外の世界を学んでいきます。それも信頼している人に見守られながら、いざとなったらいつでも助けを求められるような安心した状況の中できげんよく、のびのびと活動できることが大切です。
いきいきと楽しく意欲的にものごとに立ち向かっていく子どもたちは例外なくとてもきげんがいいものです。逆にいえば、きげんのいい子どもには遊ぶ力があり、遊ぶ中で自分自身を育てていきます。自分で考え、行動し、学ぶという、将来、学習する力の基礎はここから始まるのではないでしょうか。
そして4、5歳ともなると友達を作って遊べるようになります。友達との遊び体験を通して社会性をつちかいます。
赤ちゃんのうちは信頼できるおとながいれば十分だったのが、やがて友達とのかかわりが成長していく上でとても重要になってきます。遊びの中で自分を主張したり、時には自分を押さえて相手に譲ったり、自分と相手の能力を測ったり、性格を見極めたりしながら人とのかかわり方を学び、同時に自分を見つめていきます。
友達ときげんよく遊べることは、早くに本が読めたり、字が書けたり、ピアノや水泳ができるようになることよりも、ずっとずっと大切なことなのです。
一昔前までは、親は無くとも子は育つといわれたように、子育てはそれほど難しいものとは思われてはいませんでした。ところが、児童虐待をはじめ、小学校や中学校でのいじめや、不登校、学級崩壊、そして思春期の暴力や犯罪の多発に見られるように、子どもを育てるのがとても大変な時代になってきています。乳幼児期の信頼が十分に作れず、遊び体験や友達とのかかわりの不足が影響して、生きることの根っこの安心が育っていないのではと心配しています。
子どもがきげんよくあることの大切さ、素晴らしさを分かっていただき、保育園の職員と保護者の皆様と、ともに手をたずさえて、暖かいまなざしで子どもに向き合っていきたいと願っています。当園の園庭には森があり、雨が降れば川が流れます。子どもたちにとって季節・天気によって姿を変える園庭で遊ぶことは、五感をフルに活動させる機会になると考えています。
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