2023年6月19日の素話(のぶすま・海坊主)

今回は妖怪特集でした。

夏も近づいているので妖怪の簡単なお話をしました。

すみれグループ(のぶすま)

今日みたいに天気がいい日だった。

暑かったが風が吹いていて気持ちが良さそうだったから、二人の男が山登りを始めたんだ。それほど高い山ではなかったから、まああっという間にてっぺんまでたどり着いた。

「いやぁ、やっぱり山の上まで来るとチィとばかし涼しいもんだのう。」
「いやいや、それでもやっぱり暑いのは暑い。どうかね。あちらに見えている大きな山にも登ってみんか。あちらのほうが高くて涼しそうだ」

という感じで、まだまだ元気があったもんだから、もう一つ山に登ることにしたんだ。

途中沢に降りて冷たい水を飲んだり、急な崖登りをしてなんとかかんとかやってる内に、ついに大きな方の山のてっぺんまでたどり着いたんだ。

「あー、流石にくたびれれた。でもまあ、ここはいい。ちょうどよく日陰になってて、風も通る。」
「本当に涼しくて気持ちいい。お、なんだこんなところに寝っ転がるのにちょうどよいゴザみたいなもんが置いてあるではないか。これをちょっとお借りして一眠りしてから山を降りよう」

という感じで、二人がゴロンとゴザに寝転がると、これがまたひんやりしていて気持ちが良かったんだ。そして、二人がうつらうつらと目を閉じていると、ゴザの端がそーっとめくれ上がって、二人をくるりと包み込んでしまったんだ。

「ん!なんだこれ!」と二人はゴザを振りほどこうとするけど、力を入れようとしても体に力が入らない。そうこうしている内に、ますますゴザがぎゅうぎゅうと二人の体を締め付けてくる。

このままじゃダメだと思った一人が、腰に挿していた短い刀を「ブスリ」とゴザに突き立てると、「ぎゃー!」と恐ろしい声が聞こえてきた。
たちまちゴザがゆるくなり、二人は命からがら逃げ出すと、ゴザだったものが大きな大きなコウモリに形を変えて消えていった。

あれは「のぶすま」という妖怪だったんだ。千年生きたコウモリが妖怪になってああやって人を包み込んでそのまま血を吸ってしまうらしい。おお怖い怖い。

 

たんぽぽグループ(海坊主)

海に魚釣りに来た親子がおったんだ。風もあまり吹いてない、気持ちのいいおひさまが照らしていた日だった。

お父さんが船を漕いで、海の沖の方まで出て釣りをしていた。ところが今日に限ってなかなか魚が釣れない。沖の方を見ると、鳥山が出来ている。

お父さんは「あの鳥がいっぱいいるところが鳥山って言ってな、その下には魚が沢山おるんじゃ。ちょいと沖までいってあそこで魚釣りをしよう」

ということで、お父さんが船を漕いで沖まで行ったんだ。

鳥山があったところに着くと、たしかにたくさん魚がつれた。ところがしばらくすると、パタリと釣れなくなった。

「おかしいなぁ、さっきまでたくさん釣れていたのに、急に釣れなくなった」
「まあいいんじゃないたくさん釣れたんだから、今日は帰ろう」と帰ることにした。

船を陸の方に向けて、今度は子どもが船を漕いだ。するとさっきまで釣りをしていたあたりの海の水がなんだかこんもり盛り上がって見える。

「お父さん、さっき釣りをしていたところの海の水が、なんだか変だよ」
子どもに言われて、お父さんが振り返ると確かにこんもりと盛り上がって見える。そして、その盛り上がっているところがだんだんこちらに近づいてくる。

「海坊主だ!急いで帰るぞ」お父さんは急に大きな声を出して船を漕ぎだした。

二人は一生懸命船を漕いだけど、海坊主はどんどん近づいてくる。「ひしゃくをくれー」「ひしゃくをくれー」気味の悪い声でひしゃくをくれと呼びかけてくる。
そしてついに二人は海坊主に追いつかれた。

お父さんは船の底に溜まった水をかき出すひしゃくの底をパキンと割って穴を開けて、海坊主の向こう側に放り投げた。海坊主はそのひしゃくを使って海の水をすくって船に入れようと何度も繰り返してきた。ところがひしゃくの底は割れているので水は全然入らない。

そうこうしている内に、二人はなんとか陸地までたどり着いた。海坊主は諦めて海の中へ帰っていった。

「お父さんどうしてひしゃくの底に穴を開けて海坊主に渡したの?」と子どもが聞くと「ひしゃくを渡さなければ海坊主に船ごとひっくり返されて、海の底に沈められる。ひしゃくを渡してしまうとひしゃくで水をすくって、船いっぱいに水を入れられて、これもまた海の底に沈められる。だからひしゃくの底に穴を開けて、水がすくえないようにしてひしゃくを渡すしかないんだ。」

子どもは次に海坊主に出会ったときには、自分も同じようにしようと心に決めたそうだ。